アトラスの神風〜外伝〜
初めてお城を抜け出した。
いつもお母様が、危ないから1人で外に出てはいけないと言う。
でも、1人じゃないと、意味がない。
僕は将来この国の王様になるんだ。
誰かが連れて行ってくれるところや、本の知識だけじゃ、駄目だ。
ちゃんと自分の目で確かめて、いい王様になるんだ!
(…今どこらへんにいるんだろう)
大分歩いたはずなのに、景色はかわらない。
お城は森で覆われているのだ。
いつも馬車で移動しているから感じなかったけど、とても広い。
(どうしよう…)
だんだん心細くなってきた。
―ガサガサッ―
「うわぁぁぁ」
「きゃあ!」
いきなりだった。
物陰から人が出てきた…
恐る恐る顔を上げる。
「…あ」
女の子だった。
「あの…」
「ご、ごめんなさい!」
「い、いや…怪我は…」
「ない…」
「よかった。」
女の子は僕をじっと見ている。
「…あなたは…お、王子」
「しーっ」
正体がバレた!
思わず口をふさいでしまった。
「ん〜」
「あ、ご、ごめん!」
手を離すと、女の子は恥ずかしそうに目線を上げた。
「…リ、リルド王子…?」
女の子は小声でそっと言った。
「そう、です…」
「どうして、ここに…」
「その…勝手に抜け出しちゃって」
「いいの?」
「よくない」
女の子は首をかしげた。
「あ、名前教えてくれますか?」
「え…」
「い、いや…嫌ならいいんだけど」
「…フィル」
「フィル…ちゃん?」
「ちゃんはいらない」
「じ、じゃあ、フィル」
なんだか恥ずかしくなった。
「あの…街までは、もうすぐなのかな?」
「街に行くの?」
「う、うん」
「あまり遠くはないよ、私が1人で薬草採りにこれる範囲だから」
「薬草?」
「うん。私の家、薬草売りだから」
「いつも君が採りに来てるの?」
「うん。で、王子様が1人で街に何の用?」
フィルは僕を怪しい人を見るかのようにじっと睨みつけた。
「…将来のために、自分の目で街を見たいなって思ったんだ。」
フィルはまた首をかしげた。
「ほ、ほら、僕は将来この国の王になるから…」
「―あぁ、そっか。」
どうやらやっとわかってくれたらしい。
と、安心した瞬間―
「でも、勝手にお城を出るのはよくないことなんでしょ?」
痛いところをつかれてしまった。
「う、うん…」
「じゃあお城に戻ったほうがいいよ」
「で、でも…」
フィルはぐっと顔を近づかせた。
なんだかどきっとした。
「いけないことをやったら、いい王様になれないぞ!」
そう言うと、にっと笑った。
「…そう、だけど…もっとこの街のこと知らなきゃ…」
「全然知らないわけじゃないんでしょ?」
「う、うん…」
「大丈夫!そこまで考えているなら、リルド王子は立派な王様になれるよ!」
そう言った時の笑顔が、ものすごく可愛かったので、僕は真っ赤になってしまった。
「ほら、もう暗くなってきた!お城に戻ったほうがいいよ」
「う、うん」
「じゃあね!今日のことはちゃんと秘密にしとくから!」
そう言って、フィルは僕に背中を向けた。
(―もう、会えないかもしれない…)
フィルの背中がだんだん遠くなる…
(これでいいんだろうか…もう、二度と会えないままで…いや)
―そんなの嫌だ!!―
「フィル!」
僕は叫んだ。
フィルが振り返る。
「なぁに?」
「こ、これ」
僕は走ってフィルに近づき、胸にさげていたペンダントをはずしてフィルに手渡した。
「―え?」
「これはね、僕のお母さんがくれたもので、これに願いを込めると、願いが叶うんだって」
僕は精一杯笑った。
「だから、今願いを込めて、君にあげるよ。また会えますようにってね!」
ペンダントをフィルの手に握らせると、フィルも頬を染めて笑った。
「ありがとう!また、会えますように…」
フィルの背中が視界から消えるまで見送った。
きっと、僕たちはまた出会える。
あのペンダントが、導いてくれるから…
僕は、将来絶対に立派な王になる。
そして、その時隣にいるのが、君であることを願う。
END
赤阪刃さんより頂いた短編です。
このお話は刃さんの長編「アトラスの神風」の外伝にあたるお話だそうです。
なんと6、7年前から温めている物語だそうですよ!
本編の方もいずれ読ませていただけるそうなのでとても楽しみですv
|